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 お疲れ様でした。どうでしたか?難しかったでしょうか?正常の組織構造がわからないとやはり難しいと思います。でもなんとなく雰囲気が伝わればいいなぁと思って作ってみました。わからなくても全然気にしなくていいです。最初から分かる人はいませんので。

 ここでは60点を合格点にしましたが、実際の診断では悪性の所見を見逃すことは許されないので、100点を目指して病理医はやっていきます。

 さっそく問題の解説に入りましょう。問題用紙を開いてこのページを見て下さい。


 
問1
 これは正常の皮膚の組織像です。表面(図の左側)にみえる網のような構造は角質層です。皮膚の表面は何層もの細胞が重なっていますが、これを重層扁平上皮と呼びます。その上皮の一番下に基底細胞があり、それが細胞分裂をすることでどんどん重層して上皮が伸びていき、時間がたつと変性を起こし角質として皮膚から剥がれ落ちていきます。これが垢ですね。上皮の下は真皮と呼び、これは写真のように通常、細胞成分は乏しく、線維の増生が目立ちます(写真の赤い紐のような構造はほとんど膠原線維です)。真皮にもところどころ細胞成分(紫色に染まっているのが核です)がみられますが、これは線維芽細胞(線維を産生する細胞)であったり、血管内皮細胞(血管の内側を覆っている細胞)であったり、炎症細胞(炎症のときに出てきて生体に害を及ぼすものを排除する細胞)であったりします。ごく軽度の炎症細胞の出現は通常であってもみられます。


問2
 これはちょっと難しかったですか?ピンク色の渦巻き構造が気になった方が多いかも知れないですね。これは問1でみられる角質が円形になったもので、角化傾向が著名な場合などに起こります。通常は表皮の表面で角化が起こるのですが、角化傾向が強いと上皮内で角化が起こってしまい、写真にように角質嚢腫を形成します。これだけで悪性とは決められません。癌は分化傾向が弱いといいましたが、角化するというのは分化が強い訳で、癌ではあまりみられず、癌だとしても角化がみられれば高分化型の癌ということになります。
 パッと見は細胞成分(紫色)が多く、悪そうな感じがするかも知れませんが、よくみると一個一個の細胞は大人しく核の腫大などは目立ちません。重層扁平上皮の上部にやや核の大きくなった細胞がみられますが、これぐらいは癌とは呼ばず、また細胞が闇雲に増えているような様子もありません。正常よりは細胞の増殖が盛んで、上皮が厚くなっていますが、癌細胞はみられません。
 上皮内にはメラニン色素(褐色の顆粒)が増え、増えている細胞は基底細胞(上皮の基底層にある細胞)に似た細胞が多いです。メラニンは基底細胞が作るので、基底細胞の増加と伴にメラニン色素も増加しています。
 組織診断は、老人によく起こる良性の疾患である脂漏性角化症(seboric keratosis)というものです。


問3
 弱拡大でみると、なにか細胞が不規則に増えているようにみえます。2枚目の写真は主に上皮細胞が写っていますが、その上皮細胞がなにやら増殖しているようです。間質(上皮細胞の下にある層)にも細胞成分が多いですが、これは主にリンパ球で、リンパ球が増えているのは炎症反応が起こっているためで、これは悪性の所見ではありません。写真では分かりにくいですが、出現しているリンパ球にも異型性はありません。
 3枚目の写真で、増えている上皮細胞のようすをよくみてみると、核が大きくなり、大小不同がみられ、核の中にある目玉のような核小体が明瞭になっています。核周囲にある細胞質にも空胞が目立ち変性を起こしていることが窺い知れます。上皮細胞の配列の乱れも強いです。これぐらいの核異型、構造異型がみられたら癌としてもいいです。
 これは扁平上皮癌の高分化型と診断されました(Squamous cell carcinoma, well differentiated type)。癌としての異型性はありますが、癌の中で比べると比較的大人しいほうで、まだ分化の保たれている高分化型に属します。癌胞巣は重層扁平上皮様の配列をまだ残しており、癌になる前の組織を同定できない程、崩れている訳ではないですから。



問4
 これはいきなりは難しいです。たぶん、多くの方が悪性という判断をされたのではないでしょうか?癌らしい組織があってそのリンパ節だから、転移を考えるのが普通ですね。しかし、転移を考える場合は、もともとの原発巣の癌の様子と比べてみる必要があります。この方の場合は肺の重層扁平上皮癌でした。組織像は問3のような感じです。転移であるなら、それと似たような組織像であるのが普通です。ではこのリンパ節はどうでしょうか?問3のような癌細胞が増殖している様子(塊になって増えている)は、なさそうです。細胞成分がたくさんみえていますが、これはほとんどリンパ球が占めています(リンパ節ですし)。円形の核を持った、丸っこい細胞がリンパ球です。それに混じって、ピンク色の細胞質を持ったやや核腫大のみられる細胞がみられますが、これは通常のリンパ節にみられる間質の細胞です。核もゴツゴツした感じで大小不同がみられるような感じを受けますが、癌細胞ならもっと変化に富んだ形をしているので、これは癌細胞ではないです。細胞の存在の仕方もバラバラで、原発巣のような塊になっていません。
 原発巣が低分化な癌の場合は癌細胞が小さな塊になって深く浸潤する傾向があるのですが、原発巣は高分化型で細胞塊が大きく、深くまで浸潤できそうにはありません。高分化型でもリンパ管への侵襲傾向の強いものもあるので、高分化型だから、リンパ節転移がないとは一概には言えないところが難しいところですが…。


問5
 図の左のほうで、何やら円形の構造が増えているような気がします。実際に増えています。これはちょっと写りが悪いですが、胃底腺という胃にある腺の一種が増殖しているものです。比較的よくみられます。問題はその増え方が悪性か良性かということですが…。
 2,3枚目の組織像をみてみましょう。いずれも核が小さくて大人しい印象ですね。3枚目の組織像は腺管が密に増えているので、きもちは悪いですが…。その感覚はとても大切です。これは胃ですが、前立腺などの場合はこういう密な腺構造がみられればまず癌を疑います。臓器によって多少、癌とする基準が違うのでその点は経験を要します。
 しかし、この問5の場合は、核の感じが明らかに大人しいですので良性と診断しましょう。
 診断名は、胃底腺腫(fundic grand polyp)といい、胃底腺(胃酸などを産生する腺)が増えるものです。ただ増えるだけで、それで他組織に浸潤したり、また闇雲に増え続けるということもありません。核が小さく大人しいということは、「分裂能が弱い」ということになります。分裂が弱いと、例え悪性であったとしても、免疫系の働きによって排除されてしまいます。癌が恐ろしいのは免疫系の働きが及ばない程のスピードで細胞分裂を続け、どんどん浸潤していく性質があるからです。



問6
 膀胱など下部尿路系(尿管、膀胱、尿道)の粘膜は、移行上皮(尿路上皮)というちょっと変わった粘膜で覆われています。この上皮の特徴は自由にその厚さを変えることが出来るという点です。膀胱に尿がたくさん溜まっていたり、尿道に高い尿の圧力がかかったりする場合、伸びていた上皮が縮み内腔の容積を増やします。
 ではこの問6の移行上皮をみてみましょう。写真の左にみえている、2〜3層程の上皮が正常の上皮です。中央の上皮は明らかに増えています。これは上皮が伸びている縮んでいるというものではなくて、腫瘍により増えている状態です。バラバラに増えている感じがある場合は腫瘍性(良性と悪性の2種がある)と考えていいでしょう。一つ一つの上皮細胞をみてみても、核が腫大し、大小不同がみられるような感じです。移行上皮の上部には被蓋細胞という核の大きな細胞が通常でもみられるのですが、上皮の基部にはみられません。この問題の上皮には上皮基部にも核の大きな細胞がみられます。これぐらいの異型性がみられれば、移行上皮では癌と考えることが普通です。しかし、ご覧のようになかなか微妙なもので、診断する病理医の基準の差によっても多少違いが出てきます。標本のどこを切るかによっても組織像が違うのでそれによっても違いが出てきます。このように病理診断は絶対的な判断という訳ではなくて、このような微妙な症例の場合は診断者によって診断が異なる場合があるということを知っておいて下さい。病理診断は数値などで悪性度がクリアカットに出てくるものではなく、臨床情報など総合的に判断し、最終的には診断者の主観に頼らざるを得ません。しかし、その差が現れるのは良悪の境界病変の場合で、ほとんどの症例の場合は、多くの病理医の診断は一致するものと考えていいでしょう。
 この症例の場合、癌細胞がみられるのは上皮内だけで、間質には異型細胞はみられません。このような癌もありこれを上皮内癌といいます。多くは癌の初期の状態で、時間がたてば上皮と間質の境にある基底膜を破って間質に浸潤していくものですが、膀胱の上皮内癌の場合は注意が必要です。それは膀胱の上皮内癌は内視鏡的になかなか発見されにくいのと、癌が上皮に沿って広く伸展する傾向があるためで、膀胱に発生する癌の中では特に悪性の部類に入ります。
 診断名は移行上皮癌〔Transitional(Urotherial) cell carcinoma〕,上皮内癌(carcinoma in situ)としました。


問7
 同じ方の別の膀胱部です。状態の悪い標本で申し訳ないですが…。写真の右にみえるものは組織液など液体が表面に付着しているものです。上皮は通常どおり組織の表面を覆っています(上皮が浸潤しているようにみえるかも知れませんが、そうではありません)。写真をみると移行上皮の一部が増殖している感じがあります。これは腫瘍性のものと判断しました。腫瘍性にも良性と悪性の両方の場合があるので、これはどちらのものかをみていきましょう。問6の写真と比べると核異型、構造異型とも乏しい印象です。横にある正常の粘膜上皮細胞と変わらないような印象です。しかし低乳頭状に増えており腫瘍であることは間違いありません。悪性とは言えないのでこれは良性と判断します。
 診断名は中等度異型性(moderate dysplasia)としました。


問8
 これは正確には正解はありません。つまり良性、悪性と組織像だけで分けられるものではないのです。 
 まずは全体の写真を見てください。この写真には上皮層は写っていないので、皮膚の比較的深いところであるということが出来ます。パッと見、なにやら細胞成分が多そうです。個々の細胞をみるために倍率をあげてみます。一個一個の細胞をみてみると、核の腫大した、核小体の明瞭な細胞が多くみられます。これだけをみると悪性のような気がします。しかし、結論からいうとこの病変は腱鞘巨細胞腫といい、通常は良性の疾患です。中には肺へ転移を起こしたりするものもあるのですが、それには長い経過がかかります(癌のように急速に増大、浸潤するものではない)。文頭にも書きましたが、組織で良性・悪性が確実に判断できるものではなく、転移が見付かれば悪性だったという判断をします。病理組織診断にもこのように限界があります。核がたくさんある大きな細胞は説明文にもある通り巨細胞といい、これは組織球がたくさん集まってできたものです。


問9
 これは分かったのではないでしょうか。細胞が闇雲に増えています。増えている細胞を詳しくみても癌としての異型性がみられます。間質にも深く浸潤をしているようです。こういう、秩序のみられない(バラバラな)構造がみられたらまず癌を考えましょう。
 診断は腺癌(Adenocarcinoma)です。この標本では重層扁平上皮癌のようにみえますが、免疫染色(PAS、Al-B)を行うときれいに粘液が染まり、腺癌と判断しました。