このページでは「病理学」とはどんな学問なのかを紹介していきます。一般の人にも分かりやすいように書いていきます。病理学は英語ではPathologyといいます。病院で内視鏡検査を受けて組織を採取された方、手術を受けられた方、婦人科で擦過細胞診を受けられた方などの採取切片は、ほとんど全て病院の病理部というところへ送られます。正確には細胞診は細胞検査士さんが主に診断をします。病理学なんて知らないという人も、実は病理と関係があったりするので、どんなところなのか知っておいたほうがいいのではないかと思います。身近な人が癌という診断を受けた方もおられるかも知れません。このコーナーを読めば、どのようにそれが診断されるのかを勉強することができます。

 病理の業務を大きく分けると、病理組織診断、剖検、教育、研究の4つに分けられますが、ここでは主に組織診断のことについて述べたいと思います。後でテストを受けてもらいますので、しっかり説明を聞いていて下さい。

 組織診断は癌を診断する検査においてもっとも確実な検査であるとされています。もちろん癌だけではなく、良性腫瘍、その他の非腫瘍性病変まで、病理医が行う組織診断がカバーする分野は非常に広範囲に及びます。
 
 
【組織診断、特に癌の診断について】
 病理組織診断は臨床病理学の主体をなすもので、一言でいうと、顕微鏡を使ってその組織の面構えをみるものです。当たり前かも知れませんが、多くの癌の細胞はみるからに悪そうな顔をしています。正常の組織はいろいろな細胞からなっていますが、それらの細胞は互いに協調し合い、バランスを取りながら人間が生きていくために必要なことをしてくれています。しかし、癌細胞は我がもの顔で、自らの細胞を増やすことだけを考え、細胞間のルールなど糞食らえという感じで、やりたい放題しています。癌細胞はもともと上皮(内皮)内に存在する細胞だったのですが、やりたい放題ですので、上皮組織より深部にある真皮あるいは粘膜下層、筋層といった間質組織にまで浸潤して勝手に増えていきます。癌が進行してくると、血管やリンパ管の壁を破って遠隔転移を起こしたり、臓器を覆っている漿膜を破って直接周りの臓器に浸潤したりします。もちろん、生体内の免疫系もだまっている訳ではなく、癌を排除すべく必死の抵抗を続けているんですが、癌の増殖スピードのほうが速く完全には排除されないということのほうが多いようです。そういうような癌の増殖する様、癌の面構えなどをみるには組織診断は大変有用な検査です。
 
 正常な細胞は高度に分化した機能を持って、それぞれ特殊な仕事を与えられて一生懸命こなしているのですが、癌細胞は悪性になるにつれて、その分化が弱まってくる傾向があります。つまり退化するのです。人間の細胞は元々は卵子の核と精子の核が混ざり合ってできた、一個の細胞からスタートします。そこから段々と細胞が増えていって、それぞれ役割分担を決めて、筋肉の細胞、内分泌の細胞、神経の細胞へというように何百種類もの細胞に分化し、高度な社会生活を体内で営んでいるんですが(原始時代から始まって、現代に至るまでに、様々な職種に専門分化してきたのと同じようなものです)、癌細胞はその逆の過程をたどると考えれば分かりやすいと思います。このような傾向があることから、癌が比較的おとなしい場合は、高分化型癌、悪性度が高い場合は低分化癌(あるいは未分化癌)、両者の中間を中分化癌という風に呼びます(分化≒文化としてもいいでしょう)。これは覚えておくといいと思います。組織(顕微鏡)でみると、高分化型の場合は、癌細胞になる以前のその細胞が持っていた構造を残していることが多いのですが、低分化型になるとその構造が崩れ、元の組織を特定することが困難になる傾向があります。
 
 ここで、実際の組織写真を用いて、正常組織と癌の組織をみてみることにしましょう。百聞は一見に如かずです。ここでは乳腺組織をみてみましょう。



正常の乳腺組織
HE染色標本です。左上が40倍、右上が100倍、左が400倍の
組織像です。
きれいな構造をしていますよね。
多くの組織像をみているうちに段々分かってきますから、
今すぐわからなくても構いません。
こんなものなんだという感じでOKです。
次は癌の組織像をみてみましょう。

(クリックすると大きな画像がみれます。)


癌の組織像
同じく、左上が40倍、右上が100倍、左が400倍の組織像
です。なんか、細胞が不規則に増えていっているのが
わかりますね。HE染色では核が紫に染まりますから、全体が紫がかっているということは、それだけ細胞成分が多いということです。最初にみたときに受けるこの印象はかなり重要で、細胞成分の多い、つまり腫瘍細胞が増えている可能性のある部分をさらに顕微鏡の倍率を上げて、詳しくみていきます。


 大体イメージが掴めましたか?癌組織の悪そうな感じが伝わったでしょうか?正常組織は細胞の核が小さく、構造もきちんと整っており、整然と美しい姿をしていますね。それに対して、癌の組織は細胞の密度が高く、きれいな腺管構造ではなく、細い索状構造をしています。高分化な癌なら元の腺管構造を呈していることが多いのですが、これは腺管構造の面影を大部分が残していませんので、低分化な癌ということができます。一般論として、小さな細胞塊を形成して浸潤しているものほど分化度が低い傾向があります。増えている細胞自体をよくみてみると、それぞれの細胞の核が腫大し、核の形も大小不同を呈しています。癌の増殖態度を示して増えているこういう細胞を癌細胞と呼びます。核は細胞分裂を起こすときに活発に活動をするのですが、癌細胞は細胞分裂が非常に盛んなので、通常の細胞より核が腫大して、形もいびつになっています。
 この癌の名前は乳腺の浸潤性乳管癌(invasive ductal carcinoma)の中の硬癌(scirrhus carcinoma)といいます。乳腺に発生する癌の中でも悪性度が高いものの一つです。小さな細胞塊を形成した身軽な癌細胞があちこちに浸潤していくので、悪性度が高いのです。
 
 臨床病理学の日常業務の主体を占めている病理組織診断は大体このような感じで行っていきます。

 
 以上を踏まえ(踏まえるような詳しい解説はなかったですが…)、いきなりですがここでテストを出します。テストといっても組織像をみてその印象を答えてもらうだけですので、軽い気持ちで受けてみて下さい。何枚かのスライドを出しますので、その組織が悪性か、良性かを判断して下さい。自分の直感を信じて。。
 さっそくですが、みていきましょう。
 問題となる組織像が次のページにありますので、それを見ながら、この下の回答用紙に正解と思うほうをチェックして下さい。図はなるべくクリックして大きな図で見て下さいね。良悪の判断を間違うと患者さんは大変な目に合いますよ(>_<)
 問題は全9問で、100点満点中の60点で合格です。問題が終わったら採点ボタンを押して下さい。解説ページもあります。 


【ヒント】
@癌細胞の特徴は核(紫色に染まる)が大きく、大小不同がみられ、核小体(核の内部にある小さな構造)がはっきりわかってくる傾向があります。これを核異型と呼びます。

Aそして癌細胞が細胞分裂を繰り返す結果、細胞成分が多くなり、充実性に増殖したり、逆に小さな塊を作って間質に浸潤していったり、正常の構造とは異なる構造がみられるようになります。これを構造異型と呼びます。

B間質(上皮より下の層)で、異型性のみられる上皮細胞(細胞同士に接着性があるのが特徴です)があれば、それは浸潤とみなし、癌としていいです。
WHAT'S PATHOLOGY ?
問題はこちら
解説をみる



【病理診断入門】  解答用紙

100 点満点 ( 合格点 60 点 )

残り時間


テストを開始するには [テスト開始] ボタンを押してください。
問 1 次の頁の問題用紙の組織像をみて、それが良性であるか、悪性であるかを判断して下さい。
良性
悪性
問 2 これは難しいかも知れませんね。でもどちからというと良さそうな印象でしょうか?悪そうな印象でしょうか?
良性
悪性
問 3 構造が乱れ、無秩序な増殖をしているようにみえますが、果たして…。
良性
悪性
問 4 たくさんみえる紫色の丸い細胞はリンパ球で、正常でもこれぐらいみられます。癌の所属リンパ節なので、問題は癌細胞の転移があるかどうかです。
良性
悪性
問 5 何かの細胞が増えていますが、その異型性(形の乱れ)はどうでしょうか?よく見て下さい。
良性
悪性
問 6 これは非常に難しいです。この辺りは微妙な判断が要求されます。山感でもいいのでどちらかにチェックをしておきましょう。確率は5割です…。
良性
悪性
問 7 同じく微妙な判断が要求されます。
良性
悪性
問 8 核をたくさん持った大きな細胞がみえていますが、あれは巨細胞といい、通常は肉芽組織(傷のあとなど組織が新しく再生しているようなところ)によくみられる所見です。
良性
悪性
問 9 これは分かりますよね!?
良性
悪性

お疲れ様でした。「採点」ボタンを押して採点してください。


  正解が青、不正解が赤で表示されます。

結果:
1 2

なんでもいいですので、感想などありましたら、下のゲストブックのほうに書き込んでもらえるとうれしいです。
Guest Book