Wonder 1. 遺伝子の仕組みとその圧縮技術

 
遺伝子が2重らせん構造をしていることはみなさん、よくご存知だと思いますが、なぜこのような形をしているのかお分かりでしょうか?それは偶然ではなく必然の形なんですが、それについては追々説明するとして、まず遺伝子とはどこにあって、どのようなものなのかを簡単にみていきましょう。

 遺伝子は細胞核の中のさらに小さな核小体と呼ばれるものの中に保存されています。そこには23対(46本)の染色体があり、その染色体の中に遺伝子と呼ばれる遺伝情報を保存している領域が存在しています。染色体は一つの細胞の中にそれぞれ46本存在します。体重1kgあたりの細胞数は1兆と言われていますので、60kgの体重の人ですと60兆の細胞があることになり、それぞれに46本の染色体が存在するので、体の中にある全遺伝子数は膨大なものになります。しかし、一人の人間がもっている遺伝子は細胞が違ってもみな同じものですので、遺伝情報の質としては、精子と卵子が混ざって受精卵が誕生した時点のままということになります。
 遺伝子が含まれる染色体はもともとは長い糸のような構造をしています。それが電話線のコードのようにねじれ、さらに複雑に折り重なり非常にコンパクトにまとめられています。(図1参照)

 遺伝子の圧縮技術は想像を絶し、1個のヒト細胞中のDNAの全長は約2mなのですが、これがわずか1×10-6m(100万分の1m)程の空間に納められています。もつれないのが奇跡と言えるほどのスペースですよね。染色体の構造は、デオキシリボ核酸(DNA)を糸の部分として、それに塩基という突起物がついたような形をしています(図2、図3参照)。


図1
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用


図2
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用


図3
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用



 塩基には全部で4種類のものしかありません。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種です。その組み合わせのみで、遺伝情報の全てを表現しています。それらの詳しい説明もまた後でしましょう。ちょっとだけ、その内容に触れると、遺伝子の情報というのは全てタンパク質を指定しているものなんですが、塩基の並び方3つで、一つのアミノ酸を指定しています。そのアミノ酸が多数集まるとタンパク質と呼ばれるようになります。生体を構成するアミノ酸は全部で21種類です。つまり、3つの塩基の並び方で21種類のアミノ酸のうちの一つを指定していることになります。細胞が持っている塩基情報読み取り機のようなもの(実際には多数のタンパク質の組み合わせでできています)に塩基の並びを分析させると、そこの情報を3つずつ読み取って、一つのアミノ酸を指定していきます(例えば、CGCという並び方だとアルギニンというアミノ酸を指定するといった風に)。遺伝子領域には多数の塩基配列がありますから、それを順番に読み取っていくことで、アミノ酸を順番に合成していき、最後には大きなタンパク質を合成します。親から子へ伝えられていく遺伝子というのは、タンパク質の並び方を伝えているだけなのですが、その微妙な違いにより、できあがるタンパク質の性質に違いが生まれ、それが人の顔の形を変え、体格を変え、病気に対する抵抗を変え、遺伝病を伝えるなど様々な形質の違いを生み出しています。どのようにそれらが行われているのか、とても不思議なことで、興味が絶えません。

 話を元に戻しましょう。塩基の話ですが、前述のアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)はそれぞれ夫婦のような関係を持っています(図4参照)。AはTと夫婦で、GはCと夫婦関係になっています。1本の染色体はデオキシリボ核酸(DNA)をと塩基からなっていることは前述の通りですが、例えば塩基の並びがGGCTAだとすると、それらには相手が存在しますからその相手は、それぞれCCGATということになります。つまり1本の染色体に寄り添うようにもう一つの染色体が存在します。それらは相補関係になっていて、遺伝情報的には同じものを表しています。

 なぜこのような構造をしているのかというと、1本の染色体だけで存在するとエネルギー的に不安定なのが、2本では安定することと、細胞分裂のときなど、全く同じ染色体を2倍に増やさないといけないときに2本構造だと大変便利なので、この形になったものと考えられます。細胞分裂の仕組みについても後で詳しく説明します。

 
図4
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用




 
染色体はDNAと、タンパク質、少量のRNA分子からなっています。なぜDNAだけではなくタンパク質も含まれるのでしょうか?それは圧縮の仕組みと関係しています。染色体中のDNAとタンパク質の質量比はほぼ半々です。そのタンパク質はヒストンと呼ばれるものとその他のものからなり、ヒストンをコアとして図のようにDNAが1.8周巻きついた構造をしています。このようにDNAとヒストンが巻きついた単位をヌクレオソームと呼び、これがDNA凝縮の最小単位となります。ヒストンへのDNAの結びつきは常に左回りになっています。この巻きつきにより約7倍凝縮されます(図5参照)。


図5
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用





 
また、図1のようにそれらが集まり、30nm線維と呼ばれる次の構造を形成しています(nm=10-9m)。これによりDNAが約100倍凝縮されます。さらに何段ものねじれを起こすことにより高度の圧縮を可能としています。


 パソコンのデータ圧縮技術もそうですが、圧縮したものは今度は読み取るときに大変苦労します。パソコンのデータでは圧縮したものの一部だけをほどいてデータを読み取るということはできませんが、生体はそれを行っています。あるタンパク質を合成したいというときには、膨大にある遺伝子領域の中から、その情報が納められてある部分の圧縮だけがほどかれて、そこに遺伝情報解析装置(タンパク質軍団)が集まってその情報を読み取っていきます。読み取られた情報はmessenger-RNAという運び屋さんによって核の外に運ばれ、リボゾームというタンパク質合成機にかけられて、塩基情報を3つずつ読み取りアミノ酸配列を順番に読み取り、最終的にタンパク質が合成されます。

 人間には意識がありますから、タンパク質を合成しようとするならそれに必要なことを考えて、それに基づいてタンパク質を合成すると思いますが、細胞には意識がないのに(少なくとも現在はそう考えられています)、機械的な反応だけで、どうやって膨大な遺伝情報の中から必要な情報だけを読み取っているのか、非常に興味のあるところです。読み取られた遺伝情報がmessenger-RNAとして、核の外に出て行き勝手にリボゾームと結合してくれるというのでさえ不思議でなりません。生体は外界の変化に応じてスピーディーに対応しなければなりませんから、それらの反応は的確かつ迅速に行われています。全ての人間がこのような仕組みを持っているんですが、こういう仕組みがあるということが奇跡かも知れませんね。ダーウィンの進化論によって、多数の可能性の中から、こういう効率のいい仕組みだけが淘汰されて生き残ってきたとするならば、それはものすごい年月が必要だったでしょうし、適合しないで淘汰されてしまった種族も無数にいるということで、それを思うと現在、我々がここにいるということ自体が本当は奇跡に近いことなのかも知れません。




Wonder 2. DNAの複製の仕組み(大腸菌の場合)

 DNAはどのような仕組みによって複製されるのかを、今回は見ていきたいと思います。
 一部の例外はありますが、細胞には寿命があります(※)。古くなった細胞は自ら死滅し、若い細胞にその使命を委託していきます。しかしただ細胞が死滅していくだけでは、体の中の細胞数は段々少なくなっていくことになります。したがって、死滅する細胞とほぼ同じぐらい新しい細胞が生まれてこなければ現在の状態は保てない訳です。細胞は細胞分裂によって、自らと同じ細胞を増やしていきますが、その中で今回は核の中に含まれるDNAの複製についてみていこうと思います。細胞分裂をする際は、DNAの複製以外にも、ミトコンドリアやリボゾームなど、全ての細胞構成成分を2倍に増やしていかなければなりませんが、今回はその説明は割愛します。

※一部の例外(寿命がないと言ってもいい細胞)とは心筋細胞や神経細胞などで、これらは胎児期に細胞分裂を繰り返し数を増やした後は、細胞分裂をやめ、一生その数のまま存在し続けます。つまりこれらの細胞は一度破壊されると二度とその数を回復することはないのです。残った細胞が腫大したり、新たなネットワークを形成したりして死滅した細胞の機能を補填しようとする働きはあります。ちなみに、神経が再生するという話は、神経細胞自体が復活するのではなく、神経細胞にある軸索と呼ばれる、非常に長い腕(1mに及ぶものもあります)の一部が事故などで切断された場合、神経細胞自体は生きていますので、再びその腕が伸びてくる(神経がつながる)ということを指しています。精粗細胞は精子のもととなる細胞で、性成熟期の間は死滅することはなく、こちらは生後も細胞分裂を繰り返すことで精子を形成し続けます。

まず、図6をみて下さい。DNAの複製の概観が理解できるはずです。


図6
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用



 通常の状態ではDNAは2本の鎖が絡み合い2本鎖(double strand)を形成しています(図6の左の部分)。遺伝情報を担う塩基という物質には4種のものがあるという話をしましたが(G, C, T, A)、それぞれはGとC、TとAが結合するような性質を持っています。この性質により、例えば1本のDNA鎖の塩基配列がGGTACCだとすると、それに対応するDNA鎖の塩基配列はCCATGGという配列に必ずなっています(こういう関係がちゃんと保たれていないと突然変異という遺伝子変化が起こってしまうことになります)。つまりお互いの鎖は相補関係になっています。

 より具体的にDNAの複製についてみていきましょう。DNA合成の開始場所は決まっており(これをオリジンといいます)、その場所にまずDNA複製開始に関係する蛋白質が結合し、オープンコンプレックスという構造を形成し、それを足場としてDNA鎖がほどかれていきます。DNAをほどく蛋白質はヘリカーゼといい、これがまずザーッと2本鎖DNAをほどいていきます(ジッパーを下ろすのと同じような感じです)。ほどかれたDNAはそのままでは不安定ですぐにまたもとの2本鎖構造に戻ろうとするので、それを防ぐためにSSBという蛋白質がすかさずくっついて、1本鎖DNAを安定させます。


図7
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用

 1方が固定されている、ねじれた紐の両端をもってほどいていく場合、そのまま紐を引っ張っていけば、ねじれがどんどん大きくなってしまい、糸の塊を形成してしまいますね。DNAをほどいていく場合もそれと同じで、そのねじれを防ぐためにDNAトポイソメラーゼ(DNAジャイレース)という蛋白質が活躍します(図7)。これはねじれを解消したり、ねじれを作る蛋白質です。図の矢印とは逆の方向に進ませるように作用すればリンキング(ねじれ)数を減らすことができます。つまり、ねじれた糸の一部を切って、その下を通し再び結ぶことで、リンキングを一つ減らします。この作用により、ヘリカーゼでDNAをどんどんほどいていっても糸が絡まるようなことはなく、スムーズに次の作業に移行することできるようになります。


 次にほどかれたDNAを合成する仕組みについて話していこうと思います。しかし、その前にDNAの基本的な構造について説明をしておかなければなりません。図8をみて下さい。これがDNAとRNAの基本的な化学構造です。DNAではデオキシリボースを軸としてリン酸を接着剤のようにしてデオキシリボース同士が共有結合しています。図の中でA,T,G,Cとあるのが塩基と呼ばれる遺伝情報を担う部分です。

 RNAのほうはリボースを軸として、同じくリン酸でリボース同士が共有結合し基本骨格を作っています。RNAにはウラシル(U)という塩基が特別に存在します。ちなみにデオキシリボースとはリボースの2’位のOH基が、デオキシ (deoxi)作用を受け酸素が一つなくなった構造を指しています。

 図8のようにDNAには末端部が存在しそれぞれ5’末端、3’末端と呼ばれています。


図8
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用




図9
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用


 DNAの合成は基本的に5’→3’末端の向きに行われます。DNAの2本鎖は図9のように、相対するDNA鎖はそれぞれ3’末端と5’末端が逆向きになっています。

 再び図6に戻ってDNAの合成をみていきましょう。DNAの合成が5’→3’の方向に進むとするならば、1方の鎖はDNAをほどいていく向きとDNAを合成する向きが同じになりますが、もう一方ではほどく向きとは逆向きにDNAを合成しなければならないことに気が付くと思います。DNAをほどく向きと同じ方向にDNAの合成を行う鎖をリーディング鎖といい、もう1方をラギング鎖といい、この2鎖はDNAの合成法でもやや異なっています。まずは、リーディング鎖の合成をみていきましょう。

 図6にDNAポリメラーゼVというものがありますね。これは1本鎖DNAの塩基配列に対応して次々に塩基を並べていき、相補鎖を合成していく蛋白質です。しかし、この蛋白質は何もない1本鎖DNAに結合することはできません。これがくっつくためにはまずプライマーと呼ばれるものが、1本鎖DNAにくっついていなければなりません(図10参照)。これは通常RNAからなり、これがくっつくことにより足場が出来、1本鎖DNAにポリメラーゼが結合し、DNAの合成が始まっていきます。

 この機構がないと、DNAがほどけただけでDNA合成がすぐに始まってしまうので、それを防ぐ安全装置のようなものだと考えられます。このような安全装置が2重、3重に備えられてあって、通常ではDNA合成は1つの細胞周期につき一度しか起こらないようになっています。これらの安全装置が壊れると癌細胞となり、自己の細胞を際限なく増やし続けることになります(癌細胞の発生は、細胞分裂を抑えているp53などの蛋白質を作るための遺伝情報が何らかの原因(例えば紫外線によりDNAに傷がつくなど)により破壊されることで、細胞分裂に歯止めが利かなくなるために起こると考えられています)。

 次にラギング鎖のDNA合成はどうなっているのかを見ていきましょう。



図10
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用




 
ラギング鎖の場合はDNAを開いていく向きと、DNAポリメラーゼによってDNAを合成していく向きが逆になりました。これは5’末端と3’末端がリーディング鎖とは逆を向いているためです。
 ラギング鎖の合成では、ヘリカーゼによって2本鎖が開かれた後、プライモソームと呼ばれる、プライマーを合成するための蛋白質の集合体がほどかれた1本鎖に結合し、DNAをほどく向きと逆向きに1本鎖上を移動しながら、ときどきプライマーを1本鎖上に合成していきます(図10)。そのプライマー(岡崎フラグメントといいます)を足場としてDNAポリメラーゼが1本鎖DNA上にくっつき、進行方向とは逆向きにDNAを合成していきます。合成は次のプライマー部分に接触するまで続きます。RNAのプライマーはDNAポリメラーゼTという蛋白質によって取り除かれDNAで置換されていきます。


図11
「Lehninger's Principles of Biochemistry」
(廣川書店)の図より引用



 リーディング鎖もラギング鎖も歩調を揃えてDNA複製を進めないといけませんので、実際には図11のようなループ構造を形成し、複製を行っていると考えられています。

 DNAの複製はこのように行われており、そのためには2重らせん構造をしていることが最も都合がよいのです。すなわち、2本鎖をほどき、それぞれの情報を読み取って相補鎖を合成していくことで、全く同じ塩基配列を持つDNAを2倍に増やすことができます。

 今回は大腸菌のDNA合成の話をしてきましたが、真核生物における複製にはもっと複雑な機構があります。真核生物のDNAはバクテリアのものに比べてかなり大きいので、複数の複製開始基点(オリジン)を持っています。そこからヨーイドンで、同時にDNAの複製が始まります。また真核生物のDNAは、複雑な核蛋白質の中に組み込まれていますので、その問題をどのように乗り越えているのかも興味深いところです。



なんでもいいですので、感想などありましたら、下のゲストブックのほうに書き込んでもらえるとうれしいです。
Guest Book


Wonder of human body
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Wonder 1. 遺伝子の仕組みとその圧縮技術
Wonder 2. DNAの複製の仕組み